日本の指導者の大局観のなさは〝複雑怪奇〟:「昭和史〔新版〕」(岩波新書)

2014年1月11日

 1959年発行。著者は遠山茂樹、今井清一、藤原彰。

 第2次世界大戦後、明るみになった史実や研究をたどりながら、第1次世界大戦前から第2次世界大戦終結後まで日本の指導者、政財界、国民がどう動いていたかを時系列でたどる。後述するが自分は日本の近現代史はからっきしだったので、今さらながらだがこのような本で勉強しなおしている。この本は新書とはいえ、細かい史実を一つ一つ挙げて感情を排しながら事実を基にして大戦に至るまでを一直線にたどる内容で、非常に読みごたえがあった。

 安倍首相の靖国神社参拝など昨今の時事問題を冷静に考える上で、きちんと踏まえておかなければならないのは世界大戦を経験した昭和という時代についてだと思う。とはいえ、このあたりの歴史問題はどうしても思想的な意図が入りやすい。冷静に事実だけを振り返りたいと思っても、その事実が本当に事実なのかどうか疑ってかからないといけない。右や左といった思想のフィルターをもって強調されたり矮小されたりと、疑いはじめたらキリがない領域と言える。そうなれば、もう読む資料や本を数多くこなすしかない。

 また、今はどうなのか知らないが、かつては小中学校の社会科の授業でカリキュラムの進行度合いから、近現代史まで進まずに1年が終わってしまうなんてことざらであると聞いたことがある。実際に自分は小中学校はおろか、高校ですら近現代史まで授業で習うことはなかった。もちろん、非進学校だったからというのもあるが。

 さて、冒頭に書いたとおり、この本は大正から昭和に変わった時から太平洋戦争へと進むまでを丁寧に振り返る。主たるテーマは、日本国内がファシズムへと流されて誰も止めることができず、なぜ戦争に突入してしまったのかという点だ。

 以前、半藤一利著「昭和史1926ー1945」を読んだが、問題として挙げている点は共通する部分が多い。どちらの本でも指摘されているのは当時の指導者層の「大局観のなさ」だ。1939年に独ソ不可侵条約を受けて平沼内閣が総辞職した時の声明の一節「欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じたので-」が象徴的であるとしているのも一緒だ。

 この声明は、「複雑怪奇」という表現に端的に示されているように、日本の支配者が国際情勢にたいする判断力を失い、自主的な外交政策をたてることができなくなっていたことを告白したものにほかならなかった。しかもこの事態になっても、三国同盟問題は、国民に知らされず、新聞は「対欧策を再検討」と表現しただけであった。支配層は、日中戦争の見とおしについても、国際情勢の動向についても、方針をたてる能力を失っていた。それだけに国民が情勢を知り、議論することをおそれて報道と言論にきびしい統制を加えた。そして国民に知らせず言わせずおしつけえた結果は、支配者もまた見通しを失うことになったのである。(p.172)

 国際情勢の動向をつかむことなく、あるいはつかんでいたもののきちんと生かすことができず、日和見的に外交をしていたことがわかる。そもそも、国際情勢を見る目があったのか、世界における日本の立ち位置を鑑みる視点があったのか。日本人の外交についてのセンスがまだ未熟だったということなのだろうか。

 このようなヨーロッパ戦局の急転は、日本の支配層に大きな影響をあたえた。もともと阿部内閣がおこなった欧州戦不介入声明は、国際情勢にたいする判断力の自信を失っていたことの反映であり、情勢の推移を見ながら、棚からぼた餅式の利を待ちうけるという意図をもふくんでいた。だからその場その場の情勢次第で、日本の進路がきめられることとなった。(p.178)

 結局のところ当時の日本は、完全に世界情勢の動きを見る能力がなかったということがわかる。そのため、結果的に大局で情勢を考えることができず、ファシズムと精神論だけで突っ走る絶望的な戦争へと進んでしまったのだろう。

 また、個人的に興味深く読んだのは、日本国内がファシズムへと進んでいく中で、左翼勢力が内部の勢力争いなどで一枚岩になれず、結果としてファシズム化を止められなかったということだ。ただでさえ規模が小さかった左翼政党だが、治安維持法の登場によって力をそがれただけでなく、自分たちも方針の違いで離合集散を繰り返したことで影響力をどんどんと弱くしてしまったという側面があるようだ。国際情勢を見極める大局観なく流れるままに戦争へと進む中、それにあらがう役目があった左翼勢力もあらがうどころかまとまってもいなかったという状況が説明されている。また、戦後のGHQによる占領政策にもきちんとページが割かれている。日本の民主化を画策していたものの、ソ連や中国大陸での共産党の動きに抵抗するため、結果として労働運動への引き締めなど政策が二転三転してしまった経緯に触れている。

 おそらくどれも日本の近現代史を専門としている人にすれば、基礎知識のうちの基礎知識というようなことばかりだとは思う。しかしながら、冒頭にも書いた通り自分はこのあたりの歴史はきちんと学んでこなかった。それだけに学校の教科書を読むだけではわからない多くのことを学ぶことができたと思う。また、巻末には主要な参考文献の紹介と解説があり、今後の学習に生かしていけるありがたい付録となっている。

 この後については、通史を改めて強化していくと同時に、ターニングポイントになったいくつかの事件について専門的に調べていきたい。また、当時の海外情勢や国内の経済情勢など、基礎知識として詰め込んでおかなければならないことが多くあることに気がつく。この本をいわばハブのような形に、各方面の専門資料にあたっていかなければならない。

昭和史 新版 (岩波新書)

遠山茂樹 今井清一 藤原彰

岩波書店

ページ先頭 | HOME | 前の記事 | 目次 | 次の記事