復刊を果たした「新聞ダイジェスト」への思い入れを一方的に語らせてほしい

2018年2月23日

復刊された「新聞ダイジェスト」

 なんと驚くことに、去年の2017年5月号を最後に休刊していた「新聞ダイジェスト」が復刊を果たした。雑誌というメディア自体が退潮にある中、再び世に出てきてくれるとは希望を感じさせる話だ。しかも、「知る人ぞ知る」月刊誌なのに、1年を待たずにカムバックを果たすとは。「休刊」といえば「廃刊」とほぼ同じ意味となりつつあるこの世の中、本当に休んでいただけで帰ってきてくれるとは、なかなか捨てたものではないなとしみじみしてしまう。そしてなにより、編集スタッフや関係者の苦労がしのばれるし、堂々たる帰還に応援の気持ちも高まるのだ。

 「新聞ダイジェスト」とは、全国紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の紙面に掲載された1カ月分の主要記事を1冊にまとめた、いわば「切り抜き」雑誌だ。もちろん縮刷版のように紙面全部を載せるわけではない。スクラップのように、各紙から集められた記事がテーマごとに並んでおり、横断的に読める。また、記事をそのまま貼って印刷しているわけでなく、きちんとレイアウトし直しているので読みやすい。一方、国政や経済、国際や社会など全国区のテーマは分厚くフォローするが、例えば文化面の読み物や地方版の記事は対象外だ。そこは実際の新聞でチェックする必要がある。

 ところで、ぼくは定期購読で読み続けていたが、やはり一つのテーマごとに各紙の記事をまとめ読みできる点は便利だった。ネット検索して読み比べるのも手だが、新聞記事だけが雑誌というパッケージでまとまっているのはありがたい。ややこしいトピックでも、複数の記事をなぞるように読むと、思いのほか理解が深まる。ネットがあれば何でもできる時代というのに今さらと問われれば、それはまあ返す言葉はない。自分にとって相性のいい雑誌だとしか言いようがない。

 月刊誌という性質から1カ月以上のタイムラグはあるものの、これもさほど気にならない。むしろ時間が経っているからこそ冷静に復習できる。例外的なトピックもあるが、そこまで忙しい生活をしていないし、そこまでスピードを求められる社会的地位でもない。自分の生活と頭のレベルにはちょうどいいのだ。また、巻末に時事用語の解説がまとめられているのもありがたい。ここさえチェックしておけば、だいたいの時事ネタはごまかしが利く。とりあえず今月の時点で知っておくべき時事用語はこれだという意味合いで便利。就職や資格など各種試験の時事対策で使われているのもよく分かる。

 900円(本体)という価格設定は、他の雑誌に比べれば割高感があるかもしれない。しかし、6種類の全国紙から選び出した記事をスクラップのように読み直せる点を考えると、むしろ手頃だね感の方が強い。新聞を定期購読すれば1紙だけでも毎月3000~4000円はかかる。集金のたびに洗剤をもらったとしても、総額では比較にならないコストパフォーマンスの高さだ。

 また、新聞やネットではニュースを「知る」ことはできるが、それらを知識として定着させるのは手間がかかる。できているつもりで止まっていることが多い。あるニュースやトピックを知っていても、詳しく突っ込まれるとあやふやと気付くことが多いのは、心当たりある人も多いはず。毎日、欠かさずにニュースをチェックしていても、意識して学ぼうとしないと知識としてなかなか定着してくれないのだ。そのため、時事に関する知識を復習して固める基礎工事用の教科書として使い勝手がいいのだ。

 しかし、去年の5月だったろうか。発売日も過ぎたしそろそろ今月号が届くかなあと待っていたにも関わらず、いつまで経っても届かない。心配に思いつつも日々を過ごしていると、ある日、一通の現金書留が届いた。送り主は「新聞ダイジェスト社」。中には休刊の知らせが書かれた紙と、定期購読で振り込んでおいた分の残金が入っていた。終わった。終わってしまった。心中に去来したのはこの言葉だった。愛読誌が突如として無くなる心境たるやない。前述の通りニュースや時事問題を知るだけでなく、理解して血肉にするための教科書が無くなってしまったという喪失感が強かった。

 そういえば嫌な予感はしていたのだ。というのも、休刊の数カ月前、本誌の最後に事務所移転の知らせが掲載されていた。ふと気になってGoogleマップとストリートビューで調べてみたところ、これまでの立派なビルの一室から小さな建物に移転しており、「このご時世だし、さすがにいろいろ遣り繰りが苦しいのか…」などと勘ぐっていたのだが、どうやらこの悪い予感は的中してしまったようだった。

 さて困った。これは困った。

 複数の新聞を読み比べるといっても、まずはそれら各紙を手に入れるのが時間的にも経済的にも難しい。新聞購読なんてせめて1~2紙が限界だ。では、同様の雑誌はあるかというとこれが無い。ニホン・ミック社が出版している「切り抜き速報」という雑誌の存在を知り、試読誌を取り寄せてみたものの「新聞ダイジェスト」のような分量と網羅性は残念ながら無かった。教育や福祉の分野に限ると有用かもしれない。また、全国紙だけでなく地方紙の記事も載せている点が魅力だが、広い範囲で深く記事をカバーするとなると「新聞ダイジェスト」の方に軍配があがる。

 ではやはり、ネットの力に頼るしかないのだろうか。確かにネットは便利だが、同テーマの記事を集める作業自体が億劫なんだよなあというなまけ者である上に、長いことモニターを見ていると頭が痛くなる困った体質。そもそもネットでは能動的に自分から積極的にアプローチしないと記事の発掘はできないし、何より数が膨大だ。自分のような不器用な人間には自信がない。途方に暮れたまま、普通に毎朝配られる新聞を読みつつ、足りない分はネットでちょこちょこと記事を探して読むという生活を続けるしかなかった。

 そして、ある日。

 寒波が続く中、この日も特にやることがなく、昼間から貧乏アパートの一室で布団にくるまり、歯を食いしばり寒さに耐えながら時が過ぎゆくのをただただ惨めに待っていたところ、玄関の方からドアポストに何かをねじ込む音が聞こえてきた。ポストといってもドアに穴が開いていて、郵便物はそのままドサリと玄関の靴の上に落ちる簡素なもの。いつもは宅配ピザかアルバイト求人か風俗のチラシが投函されるくらいだが、この日は何か様子が違う。何やら厚みのあるものがドサリと猫の額ほどの玄関に落ちたのが分かった。

 億劫に感じながらも、暖かいお布団から這い出して玄関に行ってみると、見覚えのある茶封筒が落ちている。拾い上げると「新聞ダイジェスト」の大きな文字が。あれ? 確か去年に休刊したはず。今ごろ何が届くというのか。疑問に思いながら開けてみると「新聞ダイジェスト」という題字とMLBエンゼルス入りした大谷翔平の凛々しい姿が栄える1冊の雑誌が出てきた。どこをどう見ても「新聞ダイジェスト」である。これは何か、しばらくは状況が分からなかった。本誌と一緒に「復刊のご挨拶」と題された紙が同封されており、心ならずも休刊したものの、再び復刊を果たし、かつての定期購読者に見本誌を贈っているとのこと。なんと復刊を果たしていたのだ。「休刊」と聞いて「廃刊」と早合点していた自分を恥じた。なんだよ、休んでただけだったのかよ。びっくりさせるなよ、である。

 さて、誌面の体裁はほとんど変わっておらず、読売・大橋善光氏の「ニュース点検・展望」で今まで何事も無かったかのように始まり、同テーマの記事が並ぶ「特集」と続く。これまでに比べてこの「特集」が分厚くなった印象を受ける。続いて、社説比較、政治や経済、国際などの各テーマの記事がまとめられている。これも変わっていない。

 目を引いたのは裏表紙に掲載されている読売新聞社の広告である。これまでは時事用語問題集など新聞ダイジェスト社による別冊の自社広告が載るだけだった。つまり、広告のない雑誌だったのだ。しかし、とうとう外部の広告が入った。しかも、天下の読売新聞である。もちろんこれがいくらくらいの広告枠で、どういう経緯で掲載が決まったか知る由もないが、同誌にとっては大きな支柱にはなるはずだ。よかった。ホントによかった。

 長々と書いたが、別に「新聞ダイジェスト」からお金をもらって書いているわけでもないし、ここまで持ち上げる理由があるわけでもない。でも、このご時世に復刊を果たしたというのは素直にうれしい。頼りにしていた雑誌が戻ってくるのは、やはりうれしいのだ。新聞というメディアが斜陽にある中、その記事をまとめるという雑誌だけに、休刊時はネット上で「当然だろ」とゲラゲラ笑うかのような意見も見られた。いやいや、そういう問題じゃないんだ。そう思いつつ悔しさをこらえて唇を噛んでいたが、休刊は休刊。がっかりしていたものの、このように戻ってきてくれた。その余韻に浸りながら、この雑誌を読み進めている。決して万人受けするタイプの雑誌ではない。しかし、自分にとっては実用性が高い雑誌なだけに、思い入れも含めてこうやっておすすめしたくなっちゃう。というか、1人でも多くの人に読んでもらって存続してもらわないとこっちが困るという思いもある。いずれにせよ、結論としては「みんなも新聞ダイジェストを読もう!」という一言につきるのであった。

新聞ダイジェスト 2023年2月号【雑誌】

新聞ダイジェスト社

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