とにかくやってみよう、書いてみよう:永江朗「書いて稼ぐ技術」(平凡社新書)

2013年8月26日

 2009年発行。

 ライターという仕事にあこがれている人は結構多いのではないかと思う。ライターという仕事を強く意識しないまでも「文章でお金を稼ぎたい」と密かに考えている人は少なくないと思う。

 とはいえ、実は自分も職業ライターっぽい仕事をしていたことがある手前、「そこまでうまくはいかないよ」と言わざるをえない。何せお金をいただくために文章を書くとなると、自分の書きたくないことやまったく興味のないこともさも面白がっているかのように書かなければいけない。そんな現実に向き合い続けてはじめてライターを名乗れるのが事実だ。音楽や絵と違って文章は書こうと思えば誰でも書ける。それだけに誰もが参入できそうな業界だが、それだけに食っていくためには相当高いハードルを越えていかないといけない。それに耐えられるかどうか。

 でも、文章を書くのは楽しい。ぼくも楽しんでいる。下手くそだけど。お金になればなお嬉しい。やはり文筆稼業にはあこがれる。また、昨今は会社などに勤めながらライター稼業にも精を出すという「二足のわらじ」な人も散見される。中には本を出してしまうような人もいてすごいなあと思う。

 そもそも経済があまり好転せずにグズグズしている中、いつ潰れるかわからない会社に勤める以外に、セーフネットとして第二の収入口を探すべきという考えもメジャーになってきている。そんな中、誰もがチャレンジできる文筆稼業はもってこいなのかもしれない。

 「書いて稼ぐ技術」を書いた永江朗さんも長く「兼業ライター」をしていた人。そんな著者が、これまでの経験を振り返りながら、フリーライターとしての世渡り術を語っている。

 面白いのは、最近ありがちな「会社勤めはもう古い。フリーのライターになろう」と高尚かつ荒唐無稽な煽りではなく、極めて身近な話題からフリーライターになる方法を現実的に解説しているところだ。

 名刺の作り方や出版社への営業、企画づくりのコツから取材のノウハウや業界内の社交術などさまざま。原稿料や印税などの注意点のほか、「公営住宅を狙うべき」と住まい選びのアドバイスと幅広い。しかも、どれも詳細に解説されており参考になるところが多いのではないだろうか。ライター術というよりは生活術に近い。「近所の住民にはきちんとあいさつしよう」などというくだりは実体験からの切実なアドバイスだろうと思うが、なんだかちょっと面白い。

 さて、ネットが普及して以降、誰もが文章を執筆して公開できる環境が整った。かつてはホームページだったが、それがブログに移り、今ではSNSが盛んだ。先にも書いたが、そんなネット上での執筆活動が出版につながることもある。

 また、従来の紙による出版だけでなく、ネットだけで活動するニュースサイトも多くなってきた。ひょっとすると、現場に出かけてコンテンツをつくるライターという仕事へのニーズは、もっともっと増えてくるのではないだろうか。そう考えると、ライターデビューへの夢も広がる。

 しかし、現実にはそれだけで食べていけるわけではないし、発注側の要求に応えるような筆力も磨かなければならない。そのあたりについて著者はこうやさしく呼びかける。

大切なのは、「やりたいこと」より「やれること」、「できること」です。いまできることをやればいい。手持ちの札だけで勝負する。いちばん堅実で間違えないやりかたです。やれることをやりながら、少しずつやれることを増やしていけばいい。(p.29)

 また、高まっているニーズは必ずしもライターではなく、コンテンツであろうということも考えた方がいい。著者はフリーライターを「好奇心代行業」と表現している。読者の好奇心を満たすため、実際にさまざまな現場に出向いたり人に会ったりする役目ということ。それを原稿にまとめて読者に提供してはじめて商売が成り立つ。それだけに、他人とは違った視点や考え方が求められるのは間違いない。ましてや自己満足では成り立たない仕事だ。

 とはいえ、著者はライターを志す人たちが増えることに希望を持っているし、それだけにキャリアデザインへのヒントとしてこの本を書いたとしている。ネットで多くの情報が行き交う中、おそらくコンテンツの不足は慢性的に起きるはずだ。いや、もう起きているのかもしれない。他人のコンテンツを融通、あるいは剽窃しているようなサイトも少なくない。ということは、コンテンツを創りだすライターという仕事は、やはりとてもニーズが高いのだろう。

 「ライターには元手はいらない。まずは兼業から始めよう!」。帯にはそんな生活へのスタートについて、そのまま書かれている。まずはやってみること。ブログでもなんでもいいから、まずは書いてみること。それでいいんじゃないだろうか。

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