残業なんか絶対するな そうすれば仕事の質はよくなる:吉越浩一郎「デッドライン仕事術」(祥伝社新書)

2013年8月4日

 2007年発行。

 トリンプ・インターナショナル・ジャパンの社長として、19年連続増収増益に導いた極意がこの「デッドライン」を設けるという仕事のスタイルだという。実際、社員全員に一切の残業禁止を課したのにも関わらず増収増益をもたらした、その方法論を紹介している本だ。

 この本で述べられている要点は、実は冒頭の「はじめに」で全部書かれている。

 では、どうすれば仕事の効率が上がるのか。

 それが本書のテーマだが、とりあえず基本的なことだけ述べておけば、まずは時間に対する考え方を改めることだ。(p.5)

 整理すると、この本のポイントは次の二つだけである。

 デッドライン仕事術の二つのポイント
(1)毎日、「お尻の時間」を決めて仕事をする(ダラダラ残業禁止)
(2)すべての仕事に「締切日」を入れる

 この二つは、「就業時間も仕事も、すべて締め切りを設定する」と一つにして言い換えることもできる。働く時間にも、仕事にも「締切」を設定して、それを必ず守ることでしか仕事の効率は上がらないし、逆にいえば、「締切」を設定して守るだけで、効率は飛躍的に良くなるのだ。(pp.8-9)

 ここで面白いのは、著者が「効率を上げる手法」を説いているのではないということだ。仕事に締切を設けて、それに間に合わせるように工夫を重ねる。それにより自然と効率や生産性が上がる。あくまで高効率化は結果なのだ。

 仕事の効率化というと、どうしても精神論に陥ってしまいがち。しかし、この本で述べられているのは、慣れるまでは大変かもしれないけれど、決して精神論ではない。そこが面白い。終業時間を決めて、きっちりそれを守るように仕事をがんばればいいという発想の転換だ。

 さて、本書にある「締切日」設定の効用なのだが、一つ大きいのは仕事の進捗状況を可視化できるというところ。製造ラインなどは進捗度が分かりやすいが、いわゆるホワイトカラーの場合は数値化しにくい。しかし、締切日を設けてその達成度を割り出し、共有化することで、進捗管理ができるという考え方だ。

 また、実際に一つ一つタスクに締切日を設定することで、自分が今、全力を尽くすべきことが何なのかという点が明確になるなど利点が多い。これによって仕事への集中も高まって高効率化へとつながる。定時に帰れるし、「明日も頑張ろう」と思える。次へとつながるよい循環ができるのだ。

 ところで、この「デッドライン」という考え方を論じている上で興味深いのは、この手法を突き詰めると日本型の経営や働き方の問題点が如実に浮かび上がるという点だ。

 著者は新しい仕事の考え方を紹介するだけでなく、それを通して「日本型」の問題点を厳しく批判する。全体を通して、締切日を設けるという仕事術を紹介しながら、いかに日本型の経営や働き方が非効率であり、硬直化しているかを明らかにする。読み終えると、仕事術の本というより、日本型の経営や働き方に対する批判と警鐘という趣だ。

 残業について挙げれば、ホワイトカラーの生産性指標がないことから、「残業をしている」ということだけで仕事をしている気分になってしまい、さらにはそういうダラダラした働き方が評価されてしまうといういびつな環境を批判する。

 また、仕事に締切日を設けることで、経営判断もスピード化する例を挙げている。締切日という進捗度指標ができることで、情報共有化がしやすくなったり、判断基準が増えたりする。それによって、日本企業が陥りがちな判断の先送りといった悪いクセも防げるという。

 現場で「生産性を上げろ」「効率を高めろ」と上司から言われることも多いけれど、「じゃあどうすればいいの」という議論がどうしても抜け落ちる。ともすれば、高効率化だけが目的になってしまい、「高効率化を議論する会議で残業する」という笑えない現実が待っている。

 冒頭にも紹介した通り、対処法としては「絶対に残業をしない」「締切日を設ける」の二点だけだ。この結果として、生産性や効率は上がる。残業や休日出勤さえすれば経営は良くなるという悪しき考え方を覆す、大胆かつ合理的な内容の本だと思う。

 人を大切にしながらも、高い生産性を生み出す企業風土をつくるヒントになるだろうし、仕事もプライベートも充実させたい個人の仕事術として役立つ内容だった。

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