何でアメリカ人が「どうしようもない」のか本音と習性が分かる本:町山智浩「アメリカ横断TVガイド」
2019年1月7日
2000年、洋泉社発行。著者は宝島社や洋泉社の元編集者で、現在はアメリカ在住の映画評論家、ジャーナリスト。専門の映画や得意とするサブカル分野だけでなく、激動のアメリカ国内の情勢をさまざまな視点からレポートするなど、豊富な知識とフットワークで、一般的なメディアだけでは分からないアメリカの実際を伝え続けている気鋭の書き手だ。
町山氏が連載をしていた「TV Bros.」愛読者だったということもあり、個人的にずいぶんと前から私淑するライターだった。まだインターネットも今ほどメジャーじゃない時代、テレビや新聞では分からないアメリカという国の良くも悪くもどうしようもない姿を赤裸々に伝える町山氏のコラムは毎回楽しみにしていたのを覚えている。誌面では決して大きくないコラムだったが、知らない世界を教えてくれる大きな窓だった。
さてこの本は、町山氏が渡米した1997年ごろから2000年までの「TV Bros.」などでの雑誌連載をまとめた内容。アメリカ各地を転々としながら、映画や100チャンルを超えるというテレビ局が放送するさまざまな番組を通して、超大国アメリカの下らなくてどうしようもない本当の姿を伝える内容になっている。
当時、アメリカ生活を始めた著者の活動初期の様子をうかがえる点でも面白い。その後の町山氏の活動の源泉をも感じられる。また、学校にも行かずろくに働きもせずダラダラしていた個人的にダメだった時代にいつも手元に置いて、時間があれば読み直していたので思い入れもある本。連載から約20年経った2019年1月、改めて読み直してみた。
紹介されているのは「ER 救急救命室」など日本でも知られるような番組あるが、大半は日本では考えられない、あるいは放送できない番組ばかりだ。明らかに人の道を外した連中が嬉々として出演する視聴者参加トークショー。特定の民族や人種を差別する内容が普通のバラエティーショーやドラマ。下世話な内容をまじめに伝える法廷中継などなど枚挙にいとまがない。20年前ですらこれ。
今ではどうなっているのかという思いもあるが、やはりインターネットの登場でテレビ番組を通さずとも、下世話な本音を世界に垂れ流すことができるようになった。アメリカだけの話ではないが、下世話で下らない人間の本性を観たいというわれわれの欲求自体は変わってないし、自分の恥部をさらしてまで注目を浴びたいという人間のダメな本心もこれはこれで時代が変わろうが不変なのだなと感じざるを得ない。
さて、世界一の強国にもかかわらず、とんでもない政権運営で国内外に混乱をもたらすトランプ大統領がなぜ生まれたかを考える時、このような本を読んだ上でアメリカという国の性格を踏まえると、結果的にあのような大統領が生まれるのも「まあ分かるかな」という気分になる。本書のようなアメリカの負、というか本性丸出しの下らなくもバカ正直な国民の姿をある程度知っているだけでも、アメリカの迷走ぶりも「やっぱりまあ分かるかな」と割と納得できでしまうのが不思議。単一民族の国ではないので表現がおかしくなるかもしれないが、「そういう国民性で、そういう国なのだ」ということが分かる。
また、隠すべき自分の恥部をさらしてまでもテレビで注目を浴びたいというような欲求の背景にある何かも伝わってくるものがある。それだけみんな、自分の暮らす町と生活がつまらないということ。大国でありながら、国民はごく小さな町やコミュニティで簡潔している人たちの集積であるということ。アメリカ国内を転々とする自分たちの姿を紹介する著者のレポートからも、アメリカがそんな田舎の集積体であることが伝わってくる。とはいえ、そういう人たちの姿に嫌悪感を覚えさせる書きぶりにはなっていないし、純粋に面白がりながら伝えており、こちらもそんなバカなアメリカ国民にかえって親近感を覚える。そして、いかに日本はみんなそろって本音を隠している息苦しい国なのかを痛いほど感じる。アメリカは本当に自由の国なのだ。下ネタも差別ネタも全部アリなのだ。すごく自由。もちろんどーしようもない意味で、だが。